- 新科目の「公共」とは、どのような科目なんだろう…
- 「公共」は「現代社会」と同じ授業をすれば大丈夫なのだろうか?
- 「公共」の授業はどうやって作ったらいいんだろう…
早ければ2022年度の高校1年生から、遅くとも2023年度の高校2年生からスタートする新科目「公共」。
今回の学習指導要領改訂でカリキュラムが大幅に変わることから、これまで「現代社会」や「政治・経済」の授業を担当したことのない先生が「公共」の授業を担当するという事態が生じています。
そのため「どうやって公共の授業をつくればいいんだろう…」と不安に思っている先生も多くいると思います。
また、これまで「現代社会」や「政治・経済」を担当してきた先生方は、「公共」といっても「現代社会」と同じように授業すれば大丈夫だろう、と考えている方が多いのではないでしょうか。
確かに、学習指導要領解説の学習内容だけをみると防災が加わったこと以外はこれまでの「現代社会」と大きく変わらないようにみえます。
しかし、「公共」の授業づくりは「現代社会」の授業づくりとはまったく違うので注意しましょう。
- 「公共」と「現代社会」のおもなちがい
- 年間を通して課題の追究や解決といった活動を実施
- 13の学習主題の設定
- 主権者として実際の様々な社会的課題に対して適切に判断し解決する力の修得
- 高等学校の道徳教育の中核。中学校の道徳教育との連続性に留意。
- 関係する専門家や関係諸機関などとの連携・協働
- 特別活動などと連携したキャリア教育の中核的機能
これだけをみても、「公共」が「現代社会」とは異なる性質のものであること、授業のつくりかたも今までとはまったく異なるものになることが分かります。
こうしたちがいの背景には、「公共」という科目が成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことに大きな影響を受けている科目である、ということがあります。その点を理解せずに授業づくりを進めても、「公共」は真に意味のある授業にはなりません。
「じゃあ具体的にどうしたらいいんだろう…」と授業づくりに不安をもってしまいますね。
そこで、まずこの記事で「公共」の授業づくりの前に知っておくべき4つのポイントをおさえましょう。
「公共」は、新学習指導要領で目指されている「授業の探究化」のシンボルともいえる新科目です。
「公共」の授業づくりの前に、「公共」がどのような科目なのかを正しく理解し、「公共」の授業づくりをするために必要なポイントを知っておきましょう。
年間を通して「探究授業」を展開
「公共」は、成人年齢の20歳から18歳への引き下げに対応した、主権者として実際の様々な社会的課題に対して適切に判断し解決する力を身につけることが求められている科目です。
そのため、知識の習得を目的とした学習ではなく、グループワークやディスカッションといった、いわゆるアクティブ・ラーニングの手法を活用しながら一人ひとりの考える力を育む探究授業を展開する必要があります。
「公共」の目標
人間の社会の在り方についての見方・考え方を働かせ、現代の諸課題を追究したり解決したりする活動を通して、広い視野に立ち、グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の有為な形成者に必要な公民としての資質・能力を次のとおり育成することを目指す。『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 公民編』より
「現代社会」の目標では、「現代社会の基本的な問題について主体的に考察し判断するとともに自ら人間としての在り方生き方について考察する力の基礎を養い…」とあっただけですが、「公共」ではどのような活動をするかまで示されているということです。
さらに、「公共」の目標は(1)~(3)と続き、そこでより具体的に示されていますが、そこには、「情報を適切かつ効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする」、「合意形成や社会参画を視野に入れながら構想したことを議論する力を養う」とあります。
このように、「公共」では現代社会の諸課題を題材とした実践的な学習、つまり探究授業を展開することが示されている点が大きな特徴です。
「公共」では、主権者としての能力を身につける実践的な学びとして「探究授業」を実施する必要があります。
「探究授業」って何?
「探究授業」ってどうやってつくればいいの?
という先生にむけて
「【SGH・SSH開発経験者が伝える】探究授業のつくりかた~基本の5手順~」の記事でくわしく解説しています。
3つの大項目の役割を理解した授業づくり
「公共」の構成は、「A 公共の扉」、「B 自立した主体としてよりよい社会の形成に参画する私たち」、「C 持続可能な社会づくりの主体となる私たち」の3つの大項目からなっています。
「現代社会」も3つの大項目から構成されていましたが、「現代社会」では導入・展開・まとめという位置づけにすぎず、日々の授業づくりや年間指導計画(シラバス)にそこまで影響はありませんでした。
しかし、「公共」では3つの大項目の役割がより明確化されているため、日々の授業づくりや年間指導計画(シラバス)に大きく影響します。
「公共」の3つの大項目の役割
大項目 | 学習指導要領解説にある文言(抜粋) |
A 公共の扉 | 概念や理論などや基本的原理を理解 大項目B及びCの学習の基盤 |
B 自立した主体として よりよい社会の形成に参画する私たち | Aで身に考え方・基本原理を活用し主題を追究・解決 |
C 持続可能な社会づくりの主体となる私たち | 課題の解決に向けて考察・構想し、自分の考えを説明・論述 現代の諸課題について多面的・多角的に考察・判断 合意形成にや社会参画を視野に入れながら議論 |
表をみると、AをベースにしてBが展開され、AとBをベースにしてCが展開されるという、年間を通しての授業の構造が明確なものになっていることがわかります。
言葉を選ばずにおおざっぱに言えば、「現代社会」では、導入の学習をしたあと、「倫理」の内容をおおまかに学習し、その後に「政治・経済」の内容を学習、そして最後にまとめとしての探究授業を少しする、という流れで実施することができました。
しかし、「公共」では、AではBの探究学習に必要な概念や理論・基本的原理を学習することが求められています。
そのため、Bの内容から逆算して、Aでどのような概念・理論・基本的原理を学ぶかを考えるという授業づくりをする必要があります。
また、A→B→Cの順に探究要素の負荷が大きくなっていることもわかります。
- 探究要素と負荷の例
- 強度…意見を共有する < 議論をする
- 範囲…ペアワーク < グループワーク
- 深度…教師が問いを提示 < 生徒が問いをたてる
探究要素の負荷が大きくなるにつれて生徒自らが学びを進める探究学習が本格化します。生徒自らが学びを進めるためには、ある程度の授業時間を確保する必要があります。
また、学習指導要領の内容の取扱いで「関係する専門機関や関係諸機関などと連携・協働を積極的に図り」と示されています。本格的な探究学習には、学校内の知見だけでなく様々な機関と連携して新たな知見を得る必要があり、当然その分の授業時間が必要になります。
つまり、本格的な探究授業が展開される「C 持続可能な社会づくりの主体となる私たち」には、「現代社会」の第3部と異なり、かなりの授業時間を確保する必要があるということです。
年間指導計画(シラバス)を作る際には、そのことも念頭においておきましょう。
「公共」では、3つの大項目の役割が明確化されました。
この3つの大項目の役割にそって、
年間を通して徐々に探究的な学びの負荷が高まるように授業設計しましょう。
Aでは、探究授業というより探究的な学びに必要な知識・技能を身に付ける授業
Bでは、教師が提示した主題についてまずは探究してみる授業
Cでは、問いをたてることもふくめた本格的な探究授業
というイメージで授業づくりをしてみましょう。
Bでは「13の主題」に応じた授業づくり
年間を通して探究授業を展開する「公共」ですが、探究授業では「問い」が構造化された授業づくりをする必要があります。簡単に言えば、授業のねらい(ゴール)を探究的な「問い」で設定するということです。
ただし、「公共」の3つの大項目の「B 自立した主体としてよりよい社会の形成に参画する私たち」では、あらかじめ「13の主題」が設定されていますので、それに応じた「問い」を設定する必要があります。
- 13の主題
- 法や規範の意義及び役割
- 多様な契約及び消費者の権利と責任
- 司法参加の意義
- 政治参加と公正な世論の形成、地方自治
- 国家主権、領土(領海・領空を含む)
- 我が国の安全保障と防衛
- 国際貢献を含む国際社会における我が国の役割
- 職業選択
- 雇用と労働問題
- 財政及び租税の役割、少子高齢社会における社会保障の充実・安定化
- 市場経済の機能と限界
- 金融の働き
- 経済のグローバル化と相互依存関係の深まり(国際社会における貧困や格差の問題を含む)
「どうやって問いをたてていいか分からない」という先生も多いと思いますが、教科書にはたいてい「学習のねらい」や「学習課題」が設定されていますので、まずはそれをベースにして自分が教えやすい形にアレンジしてみましょう。もちろん、教科書の文言そのままでも大丈夫です。
探究授業は「ゴール探究型」のほうがつくりやすいので、探究授業づくりに不慣れな先生は、教科書の「学習のねらい」や「学習課題」を「開いた問い」になるようアレンジしましょう。
「ゴール探究型」や「開いた問い」については、「【SGH・SSH開発経験者が伝える】探究授業のつくりかた~基本の5手順~」の記事でくわしく解説しています。
また、学習指導要領解説から、大項目Bでは「Aで身に付けた考え方・基本原理を活用し主題を追究・解決」することが求められていることがわかります。要は、「まずは探究してみましょう」ということです。
そのための授業づくりとして、13の主題に応じた教師からの問いの設定、活用するAで身に付けた考え方や理論の設定、探究の要素(強度・範囲・深度など)の負荷設定の3つを意識しましょう。
Aで身に付けた考え方や理論のどれを活用するのかを明確にすることで、Aに戻りながらBを学んでいくという学びの積み重ねが実現します。生徒の主体的な学びをすすめるためにも該当する教科書のページ数まで明確に示しましょう。
「公共」の中心ともいえるBでは、「13の主題」があらかじめ設定されています。
この13の主題に応じた探究授業をつくりましょう。
そのためには
・教師による「開いた問い」
・活用する考え方や理論の想定
・探究の要素の負荷設定
の3つが重要になります。
探究授業に適した評価方法
2022年度から高等学校でも観点別学習評価が導入されるため、学習評価のしかたも大きく変わります。おそらく多くの先生方が、この評価について頭を悩ませているのではないかと思います。
まず、大原則として、完璧な評価をしようと思わないことが大切です。
知識だけを評価するならペーパーテストで簡単に評価できます。しかし、今回の学習指導要領では、「知識・技能」、「思考・判断・表現」、「主体的に学習に取り組む態度」を観点別に評価する必要があります。
そのため、「できることを、できる範囲で」という意識が大切です。
「公共」では年間を通して探究授業が展開されるため、従来の評価方法だけでは評価することができません。ペーパテストだけでなく、ワークシートやルーブリックなどを用いて評価する必要がありますので、授業づくりをする際は、そのことも考えておく必要があります。
探究授業の評価のしかたについては、「【SGH・SSH開発経験者が伝える】探究授業のつくりかた~基本の5手順~」の記事でくわしく解説しています。
「公共」では年間を通して探究授業が展開されます。
探究授業を評価するためには、評価の機会がペーパーテストだけでは困難です。
・「知識・技能」はペーパーテスト
・「思考・判断・表現」はワークシートとルーブリック
・「主体的に学習に取り組む態度」は学びの振り返りや課題提出
というように、まずはわけて考え、「できることを、できる範囲で」やっていきましょう。
慣れてきたら、他の手法で3つの観点を複合的に評価するなどの工夫をしていけばいいのです。
まとめ
ここでは「公共」の授業づくりの前に知っておくべき4つのポイントを解説しました。
- 年間を通して「探究授業」を展開
- 3つの大項目の役割を理解した授業づくり
- Bでは「13の主題」に応じた授業づくり
- 探究授業に適した評価方法
「公共」の授業づくりは「現代社会」とはまったく違うということがつかめたでしょうか。
この記事が「公共」の授業づくりに悩んでいる先生方のお役にたてたならうれしいです。